佐内さんに会ってしまった日のこと
お店から出てすぐ、角を曲がったところの路地で、わたしは佐内さんとふたりきりで話した。外は気持ちいいね〜といいながら佐内さんはたばこを吸っていた—というオタクの妄想話みたいなことが、いや、妄想でもこんな贅沢なことは考えたことがなかった、そんなことが、現実に起こった。佐内さんとは、写真家の佐内正史さんのことだ。
昨日わたしは東京にいて、その前の日はあかりちゃんの出演する公演を東京宝塚劇場でみて、それがあかりちゃんを生で観る最後の機会だったわけだけれど、昨日は時間差でどうしようもない喪失感に襲われ、喫茶店でひとしきり泣いて過ごしてしまった。そんなひどい状況だったが、今回の東京遠征で、どんな状況でも、絶対行かなければならないと思っていたのが、吉祥寺のブックオブスキュラだった。ずっとインスタで見ていて行きたいと思っていた、写真集専門のすてきな本屋さんだ。そのお店で、来週まで、佐内さんの写真集『写真がいってかえってきた』からセレクトされたプリント写真が7枚展示されている。すべて佐内さん自身がプリントしたものだと聞いて、これは!ぜったいに!見たい!と思っていた。今、わたしは、佐内さんの写真にぞっこんなのだ。大好き。ご本人が現像した写真とか、絶対見たいでしょ。
ということで、ぼろぼろに泣き腫らして吉祥寺に向かった。14時30分から佐内さんも在廊しているとのことで、たぶん会える、と思った。15時くらいに店に着いた。佐内さんはまだいなかった、お店にはたくさん人がいた。わたしはまず、展示してある写真を1枚1枚、ゆっくり見ていた。10分くらい経って佐内さんがお店に入ってきた。ふだんメディアで見かけるとおり、ロマンスグレーのロングヘア、セットアップのフリース、もふもふの大型犬みたいな風貌だった。お友達がきていたようで、その子に写真の説明をし始めたのを、少し離れた場所から聞いていた。次に、佐内さんファンの夫婦(とくに旦那さんの方が、長年のファンっぽかった)が佐内さんと話しはじめたので、それをまた少し離れた場所から聞いていた。佐内さんは誰に対しても丁寧に写真と写真集についてお話している。こんなに丁寧にお話してくれるんだ・・・とびっくりした。目の前ですごいことが起こっている。わたしも佐内さんに話しかけようかと思ったけれど、なんだかタイミングが掴めず、今回は、同じ空間にいれただけでいいかなと思いはじめた。なによりプリント写真がとんでもなくよかったので、それが見れただけでも十分幸せだった。
7枚のプリント写真と、販売されている佐内さんの過去の写真集のサンプルをひとしきり満足いくまで見て、店内で販売されているさまざまな写真集もいろいろ見て、ほしい写真集をセレクトし、お会計をすませようとした。わたしは佐内さんの過去の写真集、『DUST』を購入することにした。すでにサインは入っていた。お名前か日付、いれてもらいましょうか?と店主さんに声をかけてもらった。そうしたらわたしの真横に佐内さんがきた。佐内さんが、横にいる!!!急に緊張しはじめてしまった。じゃあ、日付で・・・と顔を真っ赤にしながら(真っ赤になっているといわれた)お願いした。チャンスがきた、いま、話さなきゃ!今回展示されている写真のなかに、自分の好きな写真があったので、それについて伝えた。そうすると、佐内さんは、その写真のことや、今回の写真集について、話しはじめてくれた。わたしには聞きたいことがたくさんあった。聞かずにはいられなくなって、続けて、収録されている保坂さんのエッセイについても質問した。そうすると、じゃあ、外に行って話しましょうよ、といわれたので、いっしょにお店の外に出た。
そうして、このブログの冒頭の状況になった。
15分くらいのあいだ、ふたりきりになったので、わたしはうまくことばにならなかったり、話せないことがたくさんあったけれど、可能な限りことばにして、聞ける限り聞いてみた。わたしのことばが拙くても、丁寧に答えてくれた。とても優しかった。写真に信頼を置いているひとだった。自分自身のことは信じていないけれど、写真のことは信じているよ、と言っていた。
帰り際、またね、とほほえんでくれて、胸がいっぱいになった。この日のことは、一生の宝物にしようと思った。あと、わたしも、たくさん写真を撮りたいなと思った。いろんな作品に触れて勉強もしようと思う。佐内さんも、お店の店主さんも、写真のことを大切にしていて、写真のことが大好きなひとたちだった。すっかり影響されたわけだ。でも、影響されてもいいでしょう。写真っていいな、と思わずにはいられない空間と時間だった。
東京遠征中に撮った写真は、近々、現像にだそうと思う!
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